【本】アメリカのパイを買って帰ろう

 2009-09-13
アメリカのパイを買って帰ろう ―沖縄58号線の向こうへ

駒沢 敏器 (日本経済新聞出版社)
★★★★★

沖縄という所は、その南国感も相まって、ゆったりした時間が流れる長寿の国、というような漠とした憧れを持つ反面、非常に排他的という話もあって、憧れは憧れで終わってしまう場所でもあった。
そりゃそうだ。旅行で訪れた時、国道58号を行ったり来たりしつつ、その国道が持つ意味すら知らなかったのだから。

沖縄にはいくつもの時代がある。
琉球の時代、大和の時代、アメリカの時代、そして日本の時代。
その時代時代に翻弄されながら、沖縄の人達は大いなる許容力としたたかさで生き抜いてきた。この本はそんな沖縄のルポルタージュである。

アメリカのパイ、コンクリートブロックの家、SPAMの缶詰、往年のラジオ番組、そしてCoCo壱番屋・北谷国体道路店、筆者はその関係者達に取材し、その人達の生々しい人生を直接聞いていく。それらを通して沖縄の歴史と人々の真の生活と、駐留する米軍との関係が判ってくる。

何度も泣きそうになった。判ることは「何も判っちゃいない」ということ。絶対判ることなどできないけれど、彼らがどれほど優しく色々なことを受け入れてきたかの一端は垣間見た気がする。また沖縄に行きたい。今度はもう少し違う目線で見ることが出来る、かもしれないから。

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【本】いっちばん

 2009-08-30
畠中 恵(新潮社)
★★★★☆

「しゃばけ」シリーズ第七弾の短編集。
 
 いっちばん
 いっぷく
 天狗の使い魔
 餡子は甘いか
 ひなのちよがみ

病弱な若旦那のまわりに集う妖達のお話。前作はちょっと寂しい雰囲気が漂っていたが、今回は若旦那の友達がちょっと増えていく感じ。

若旦那にライバルが現れたり、菓子屋の栄吉や白粉屋のおひなちゃんたちの苦労や駆け引きがあったりと、病弱な身で大店を支えていけるだろうかと悩む若旦那も一緒に悩んで成長する一冊。

短編でサブキャラクターを丁寧に書くことで世界観がどんどん広がっていく。そこに常に若旦那が関わっていくので、ほとんど寝ているだけの若旦那がしっかり成長していくのが良く見える。長いシリーズって、途中でダレてくるのが多いけれど、このシリーズはいつも新鮮でハッとさせられる楽しい連作でお勧め。

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【映】南極料理人

 2009-08-30
沖田修一 監督
★★★☆☆

前回の『サマーウォーズ』に引き続き、またしても見終わった後、ほっこりというか幸せな気持ちになれる映画だった。

南極観測隊の話なのに、極地観測のエピソードはほとんど出てこない。おっさん達は“働いていない時”ばかり映る。

ただ一人、ひたすら働いている人間がいる。料理担当の西村だ。

8人の男達が単身赴任している基地は、寒すぎてペンギンは愚か細菌やウィルスすら生存できない場所。ほぼ全員が全く違う分野のプロフェッショナルで、狭い基地の中で約1年半顔をつきあわせて暮らす。大きな志を持って来ている者もいれば、最初から左遷だとふてている者もいる。娯楽施設があるでなし、家族や恋人との電話すら1分700円以上という環境の中で、唯一の楽しみである“食事”を作るのが西村の仕事なのだ。

最初のシーンから、丁寧な盛りつけに驚く。基地の食事は栄養補給のための食事ではなく、常にディナーなのだと気付かされる。極めて限られた食材を駆使して、できる限り美味しく、気持ちをリセットできるメニューを考え続けるのは並大抵ではないと思える。その食事を、ものも言わずひたすら平らげていく隊員達を、西村は本当に優しい目で見守っている。

彼らはイベントがあればアホみたいにはしゃぎ、ストレスに押しつぶされては“変”になっていく。それを盛り上げ癒すおいしいごはんが、ただただ淡々と提供されていく。それを食べて笑い涙する彼らを見ているだけで、こちらまで癒され幸せが伝染するんだな…と思った。

ツッコミどころもいろいろあって、随所に見られる生野菜は確かに気になった。生卵も気になった(フライには当然使うよね?)。
でも実は一番気になったのは…
清水さんとお話しするのに幾らかかってたんだろう?という件。砂時計をひっくり返すタイミングを見ていると、もしやして… いやいや、仕事中はアカンやろ… とかね。

珍しくパフレット買って読んだらもう一度見たくなりました。
でも途中ちょっと眠くなったので3点。

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【本】一瞬の風になれ

 2009-08-22
第一部 ―イチニツイテ―
第二部 ―ヨウイ―
第三部 ―ドン―
全三冊

佐藤 多佳子(講談社文庫)
★★★★☆

高校の短距離選手達の成長物語。

プロリーグへ行くほどの天才的サッカー選手を兄に持つ新二はサッカーに挫折し、これまた親友にして天才的短距離走者の連と共に“それほどでもない”高校で陸上を始める。

競技についての丁寧な説明と書き込み、選手達の“その瞬間”の想い、個性がぶつかるけれど最後は団結するライバル達、ちょっとだけイヤな他校のヤツ、有り得ない感じに魅力的な指導者、その雰囲気は高飛び込みの物語『DIVE!!』(森絵都 角川書店)を彷彿とさせる。
その才能故強豪高校から引く手数多だったのに、その性格故陸上から離れてしまっていた連は、同じように陸上部を離れ名もない大学で長距離を始めた『風が強く吹いている』(三浦しをん 新潮社)のカケルにも通じる。

どれもあまりに爽やかな運動部員達の物語。
リアルな描写は判りやすく入りやすい。
彼らが最高点に達したとき、彼らと共に風を感じられる達成感。
真に悪いヤツが居なくて、努力した分報われる。

中学校の推薦図書に最高。
でもあまりにいい話過ぎて、大人的には−1。

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【本】ちんぷんかん

 2009-08-20
畠中 恵(新潮社)
★★★★☆

「しゃばけ」シリーズ第六弾の短編集。
 鬼と小鬼
 ちんぷんかん
 男ぶり
 小春
 はるがいくよ

日本橋の廻船問屋兼薬種問屋、ここの超病弱な若旦那と周りに集う妖達のお話。
短編集はテーマがはっきりしなくてばらばらな話が多い中、今回は大切な身内松之助の縁談話を主軸に、若旦那が周囲の人(妖)達との関係や、お互いに対する想いに改めて気付いていくという、ひとつのまとまりを作っている。

大火に巻き込まれとうとう三途の川まで行ってしまった若旦那、松之助の縁談や幼馴染みの栄吉の独り立ちという周囲の変化の中でひとりますます無力を感じてしまう。けれどラストの「はるがいくよ」で、いかに自分が大切に想われているか、自分もまたきちんと愛することができるかを切実に実感する。

若旦那は死にかけつつ死にかけつつ、結構長生きするんじゃないかな…という気がした。

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【映】サマーウォーズ

 2009-08-09
細田守 監督
★★★★☆

監督にそんなつもりがあったかどうかは判らないけれど、これ、立派な「お馬鹿アニメ」だと思う。

先輩の軽〜い「バイトしない?」という一言に乗せられて冴えない高校生健二が連れて行かれた先が、田舎の旧家のお屋敷。最長老のおばあちゃんの誕生日ということで一族郎党集るそこへ、“先輩の彼氏(つーかフィアンセ)”として参加するのがバイトの内容、というのは着いてから発覚した事実。
で、めっちゃ美しい風景なこの田舎すらこっそり支配しているのが、ネット上の仮想世界、OZ(オズ)。あまりに世界中の人達が利用しているが故に、実はライフラインから軌道上の衛星までこのOZに管理されているも同然なのだ。
その夜、健二の携帯に送られてきた謎の数列。数学好きが禍してうっかりそれを解いてしまった健二。送信した結果…OZに“謎の何か”が目覚めてしまう。そして破壊と混乱が始まる。

先輩の田舎の風景が非常に美しい。美術観るためだけでも大画面で観る価値あり。そして仮想世界とのギャップも良い。全然関係ない世界に見える大家族集る旧家と、テレビゲーム感バリバリなOZ世界が、少しずつ近づいていくのも面白い。ばあちゃんまでアカウント持ってるのかよ!みたいな。

ツッコミどころ満載だし、かな〜り御都合主義だし、おばあちゃんはいきなりだし、おじさん達妙にスケール大きすぎるし、だけど、おばあちゃんの威光なのか旧家の底力なのか、その勢いに違和感はない。

やっぱりお馬鹿アニメだわ。好きです。

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【映】マン・オン・ワイヤー

 2009-08-02
ジェームズ・マーシュ監督
★★★☆☆

今は無きニューヨークのワールドトレードセンターのツインタワーにワイヤーを張って、綱渡りをしてしまった男の、インタビューと再現映像からなるドキュメンタリー映画。

子どもの頃から綱渡りの魅力に取り憑かれている男は、「そこに山があるから登る」ように、「そこに美しくて高くて綱の張れる場所があるから」ワイヤーを張って渡る。
彼はなんと、ツインタワー構想時に、既に渡る計画をたてているのだ。それに巻き込まれる人、協力を要請される人達は色々な国から集ってくる。建設途中から関係者に化けて下見をし、綿密な準備をしていく。現実に渡ったシーンは、再現と止めの写真しかないけれど、確かに美しく素晴らしい。

それぞれ違う言語を話す協力者達(途中でオリた人も)のインタビューは、体験者だけが語れるリアルな言葉だが、建設中のビルで行われる下見や検証風景の空撮が、いつどうやって撮られたものか謎。違法だったはずの記録が、かなり残っているのだろうか?

ドキュメンタリー自体は面白いと言えば面白いのだが、インタビュー部分がのんびりしていていささか退屈な部分も多かった。警備員から隠れて…みたいな部分にあれだけ時間を取るなら、もう少し計画の試行錯誤な部分を詳しく描いて欲しかったかも。

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【本】神去なあなあ日常

 2009-08-02
三浦 しをん(徳間書店)
★★★☆☆

三浦 しをんという人は、「そんなつもりは全然無いのに半ば騙されるようにして放り込まれてしまった苛酷な場所で、気がついたらしっかり適応し、思っても見なかった驚異的な活躍をしてしまう若者」を書くと上手い。(どんなだ!)

「風が強く吹いている」では、騙し討ちにあったド素人の学生さんたちが10ヶ月あまりで箱根駅伝を走りきってしまったが、この物語でもなにと言ってアテのないまま高校を卒業したとたん、ほとんど人身売買なノリで携帯も通じない山奥に送り出されてしまった少年が、翻弄されるままに気がついたら立派な林業後継者になってしまいそうな勢いなのだ。たった1年でどんだけ洗脳されるんだよ!

町に出るのも大変だし、当然携帯は繋がらないし(繋がるところもあるけど)、もの凄く閉鎖的な林業の村は、“神去(かむさり)”という地名とは裏腹に神様が本当に実在してそれをしっかり守り続けている村。それは林業が自然と密接に共存していて、また非常に危険なものでもあるから。だから村人達も排他的で濃密な繋がりを持っている。

その繋がりや思いを書かせると凄く上手いので、うっかりド素人な若者の成長も違和感なく受け入れてしまいそうになるんだけど、相当御都合主義も甚だしいんだよね。その辺りなんだかなぁ…と思うので、3点。

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【本】雨の掟

 2009-08-02
バリー アイスラー 著 池田真紀子 訳 (ヴィレッジブックス)
★★★★☆

日米ハーフ、フリーランスの殺し屋レインの第四弾。
順番がとっちらかってしまって、またまた第二弾を抜かしたままになっている。

このシリーズは、他人に心を開くことが出来ず、誰も信用することが出来ないレインの成長物語なんだなぁ…と、改めて実感。
みどりとの関係で“信頼”というものに目覚めたレインは、ドックスに対しても信頼感を深めていく。考え方の違う者を受け入れる、という感覚に戸惑いながら。
機械のように非情に任務を遂行し続けてきたレインの失敗には、彼の人間的な部分が大きく現れる。暗い生い立ちが彼を非情にもし、弱点にもなるのだが、今回ドックスの存在が救いとなりつつあるような気がする。

光と影、水と油のようなドックスとレイン。このコンビの物語は、まだまだ読みたい。

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【本】先生、子リスたちがイタチを攻撃しています!

 2009-07-30
小林朋道 (築地書館)
★★★☆☆

[鳥取環境大学]の森の人間動物行動学、第三弾。
実はぼちぼち飽きてきました。だってあまりに小林先生の普通の日常なんだもん。最初は「普通」と違う環境、興味深い動物達、面白い学生さん…と、読んでいても目新しくて興味深かったけれど、それがずっと続くと、淡々とした日常風景になってしまうんだよね。

ヤモリとかカヤネズミとか可愛いです。
ヘビとかトカゲとか飼ってみたい身としては、それができる環境とスキルと性分が羨ましいです。だから、このシリーズを読んで憧れて鳥取環境大学に行ったとしても、もっと初歩的な地道な部分で挫折するんだろうなぁ…と思ってみたり。

きっと「動物のお医者さん」とか「もやしもん」とか読んで憧れても、同じことなんだろう。

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