【本】トーマの心臓 Lost heart for Thoma
2009-11-07
森博嗣/萩尾望都(原作) (メディアファクトリー)★★☆☆☆
萩尾望都の不朽の名作を小説化!ということで興味津々だったのだが、森博嗣は結局なにをしたかったのかが良く判らないままで終ってしまった。
オスカーの目線で書かれた物語は、ほぼ原作をなぞって進行する。のだが、ところどころに何故変えたのか判らない細かい設定の変更があって、それがどうにも気になって落ち着かない。
一番気になるのが、舞台が日本だ、ということ。でも、その変更の必要性が判らない。完全に“日本版”にしてしまったのなら理解しないでもないが、人物の名前は全部原作のまま(渾名だということになっている)、学校も大学?という感じなのだが、学生寮の描写はほとんど高校みたいな雰囲気。
メインキャラ以外は名前が一切出てこないし、寮の外に出ても具体的な地名も出てこない。ので、原作のイメージは綺麗に残されている。が、だからこそ、「日本だ」と書かれると気になってならないのだ。
もうひとつ引っかかるのが、原作のセリフを出来る限り使わないようにしているところ。各章の頭で短い引用はあるものの、具体的なトーマのセリフとか書かれた文章とかが一切出てこないと、彼らの気持ちも物語のテーマもまるで判らないことないか?原作知らない人が読んで、どんな風に感じるのかが、非常に気になるところではある。
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【本】身代わり
2009-10-24
西澤 保彦 (幻冬舎)★★☆☆☆
タック&タカチ シリーズの最新刊。
「スコッチ・ゲーム」までは読んでいたものの、前作「依存」は未読でかつ、それ以前の作品もほとんど内容を忘れてしまった状態で読むのはいささか辛かった。タックは「依存」事件を相当に引きずっているようで、それが判らないと、彼らにとって今回の事件が意味するところがまるで見えてこないのだ。
状況の形と真相自体は面白かったが、推理の過程がどうも感覚的な部分が多くて、もう一つ納得出来きれないのが残念。このシリーズ、昔は好きだったのだけど、今回どうもノリが悪かったのは、文体の好き嫌いが変わったのか、「依存」による彼らの変化が合わなかったのか、その辺が良く判らない。
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【本】東照宮の近代―都市としての陽明門
2009-09-27
内田 祥士 (ぺりかん社)★★★☆☆
日光の東照宮は一度だけ行ったことがあるが、陽明門の溢れかえらんばかりの彫刻の大群には気付いていなかった。
桃山文化の影響の強い東照宮は、その絢爛豪華さ故評価は真っ二つに分かれている。筆者はその大挙する彫刻を前に、目を背けたくなるのだと言う。なぜそんな嫌悪の感情が生まれるのか… その答えを得るために東照宮の歴史と時代時代での捉えられ方を調べていった結果、その成立過程と結実したモノに「大都市東京」との共通項を見いだしてしまう。
曰く、陽明門は東京である、と。
ページのほとんどが、明治初期から現代まで東照宮について語られた文献や記事の引用で占められている。初期の文章は漢字カタカナ混じり文が多くて読みづらく、また何が言いたくて引用されたものか判りにくいため、当初何度か挫折しかけた。が、後ろへ行くにしたがって前の引用の内容が何度も引き合いに出されるため、読み進めるうちに意味が分かってくる。終章、筆者自身の言葉で述べられる結論が展開されるに至って、なぜか物語を読んでいるような高揚感があったのは面白かった。
日光にはもう一度行きたいと思ってはいたが、改めて陽明門をじっくり見つめて
みたいと思った。
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【本】ころころろ
2009-09-24
畠中 恵 (新潮社)★★★☆☆
「しゃばけ」シリーズ第八弾の短編集。
はじめての
ほねぬすびと
ころころろ
けじあり
物語のつづき
病弱がウリ(?)の若だんな、相変わらず寝てばかりなのに、今度はその上目が見えなくなった。
原因はいささか昔からの因縁にあるらしく、手代の仁吉も佐助も、いつもの妖−あやかし−達も、それぞれに若だんなの目の光を取り戻すべく奔走する。
古来より、人と人ならぬ者が深く関わることはしばしばあるようで、そこにはいろいろな悲しさや寂しさがつきまとう。それが他人事ではない若だんななればこそ、きっと判ることができたに違いない。前作と同様、連作でひとつの物語が語られるこの一冊は、また別の角度から若だんなの宿命みたいなものを予感させる。
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【本】面白南極料理人
2009-09-22
西村 淳(新潮文庫)★★★☆☆
映画『南極料理人』の原作本。
南極の、昭和基地から1,000km以上離れた内陸にある基地で越冬する男達の日常を、コックの立場から描いたエッセイ。
マイナス70℃を下回る極寒の地の狭い狭い空間で、たった9人の男達が顔をつきあわせて過ごす一年半。宇宙船に乗るのと大差ないような劣悪環境なのに、ずっと軽度な基準による人選と訓練なんだろうなぁ…と思わせる隊員達。その中で、毎日毎日彼らのストレスをできる限り少なくできるような料理を作り続ける筆者。
でも、物資の選定の過程とか、メニューの決め方とか、かなりアバウトそうな描写を観ていると、極地事業ってのが国家的な一大プロジェクトなのか何なのかよく判らなくなってくる。
個人名を挙げての各種暴露話はあんまりな部分も多いけれど、はるか彼方の極限状態な場所の男所帯の単身赴任の実態というのは、大袈裟でなくこんなものなのかもしれないと納得させられもする。まぁ、本人に関しては身びいきも良いところで、一番悪くなく書かれているのかもしれないけれど。
改めて、映画は上手いこと映像化したな…と思った。
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【本】アメリカのパイを買って帰ろう
2009-09-13
アメリカのパイを買って帰ろう ―沖縄58号線の向こうへ駒沢 敏器 (日本経済新聞出版社)
★★★★★
沖縄という所は、その南国感も相まって、ゆったりした時間が流れる長寿の国、というような漠とした憧れを持つ反面、非常に排他的という話もあって、憧れは憧れで終わってしまう場所でもあった。
そりゃそうだ。旅行で訪れた時、国道58号を行ったり来たりしつつ、その国道が持つ意味すら知らなかったのだから。
沖縄にはいくつもの時代がある。
琉球の時代、大和の時代、アメリカの時代、そして日本の時代。
その時代時代に翻弄されながら、沖縄の人達は大いなる許容力としたたかさで生き抜いてきた。この本はそんな沖縄のルポルタージュである。
アメリカのパイ、コンクリートブロックの家、SPAMの缶詰、往年のラジオ番組、そしてCoCo壱番屋・北谷国体道路店、筆者はその関係者達に取材し、その人達の生々しい人生を直接聞いていく。それらを通して沖縄の歴史と人々の真の生活と、駐留する米軍との関係が判ってくる。
何度も泣きそうになった。判ることは「何も判っちゃいない」ということ。絶対判ることなどできないけれど、彼らがどれほど優しく色々なことを受け入れてきたかの一端は垣間見た気がする。また沖縄に行きたい。今度はもう少し違う目線で見ることが出来る、かもしれないから。
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【本】いっちばん
2009-08-30
畠中 恵(新潮社)★★★★☆
「しゃばけ」シリーズ第七弾の短編集。
いっちばん
いっぷく
天狗の使い魔
餡子は甘いか
ひなのちよがみ
病弱な若旦那のまわりに集う妖達のお話。前作はちょっと寂しい雰囲気が漂っていたが、今回は若旦那の友達がちょっと増えていく感じ。
若旦那にライバルが現れたり、菓子屋の栄吉や白粉屋のおひなちゃんたちの苦労や駆け引きがあったりと、病弱な身で大店を支えていけるだろうかと悩む若旦那も一緒に悩んで成長する一冊。
短編でサブキャラクターを丁寧に書くことで世界観がどんどん広がっていく。そこに常に若旦那が関わっていくので、ほとんど寝ているだけの若旦那がしっかり成長していくのが良く見える。長いシリーズって、途中でダレてくるのが多いけれど、このシリーズはいつも新鮮でハッとさせられる楽しい連作でお勧め。
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【本】一瞬の風になれ
2009-08-22
第一部 ―イチニツイテ―第二部 ―ヨウイ―
第三部 ―ドン―
全三冊
佐藤 多佳子(講談社文庫)
★★★★☆
高校の短距離選手達の成長物語。
プロリーグへ行くほどの天才的サッカー選手を兄に持つ新二はサッカーに挫折し、これまた親友にして天才的短距離走者の連と共に“それほどでもない”高校で陸上を始める。
競技についての丁寧な説明と書き込み、選手達の“その瞬間”の想い、個性がぶつかるけれど最後は団結するライバル達、ちょっとだけイヤな他校のヤツ、有り得ない感じに魅力的な指導者、その雰囲気は高飛び込みの物語『DIVE!!』(森絵都 角川書店)を彷彿とさせる。
その才能故強豪高校から引く手数多だったのに、その性格故陸上から離れてしまっていた連は、同じように陸上部を離れ名もない大学で長距離を始めた『風が強く吹いている』(三浦しをん 新潮社)のカケルにも通じる。
どれもあまりに爽やかな運動部員達の物語。
リアルな描写は判りやすく入りやすい。
彼らが最高点に達したとき、彼らと共に風を感じられる達成感。
真に悪いヤツが居なくて、努力した分報われる。
中学校の推薦図書に最高。
でもあまりにいい話過ぎて、大人的には−1。
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【本】ちんぷんかん
2009-08-20
畠中 恵(新潮社)★★★★☆
「しゃばけ」シリーズ第六弾の短編集。
鬼と小鬼
ちんぷんかん
男ぶり
小春
はるがいくよ
日本橋の廻船問屋兼薬種問屋、ここの超病弱な若旦那と周りに集う妖達のお話。
短編集はテーマがはっきりしなくてばらばらな話が多い中、今回は大切な身内松之助の縁談話を主軸に、若旦那が周囲の人(妖)達との関係や、お互いに対する想いに改めて気付いていくという、ひとつのまとまりを作っている。
大火に巻き込まれとうとう三途の川まで行ってしまった若旦那、松之助の縁談や幼馴染みの栄吉の独り立ちという周囲の変化の中でひとりますます無力を感じてしまう。けれどラストの「はるがいくよ」で、いかに自分が大切に想われているか、自分もまたきちんと愛することができるかを切実に実感する。
若旦那は死にかけつつ死にかけつつ、結構長生きするんじゃないかな…という気がした。
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【本】神去なあなあ日常
2009-08-02
三浦 しをん(徳間書店)★★★☆☆
三浦 しをんという人は、「そんなつもりは全然無いのに半ば騙されるようにして放り込まれてしまった苛酷な場所で、気がついたらしっかり適応し、思っても見なかった驚異的な活躍をしてしまう若者」を書くと上手い。(どんなだ!)
「風が強く吹いている」では、騙し討ちにあったド素人の学生さんたちが10ヶ月あまりで箱根駅伝を走りきってしまったが、この物語でもなにと言ってアテのないまま高校を卒業したとたん、ほとんど人身売買なノリで携帯も通じない山奥に送り出されてしまった少年が、翻弄されるままに気がついたら立派な林業後継者になってしまいそうな勢いなのだ。たった1年でどんだけ洗脳されるんだよ!
町に出るのも大変だし、当然携帯は繋がらないし(繋がるところもあるけど)、もの凄く閉鎖的な林業の村は、“神去(かむさり)”という地名とは裏腹に神様が本当に実在してそれをしっかり守り続けている村。それは林業が自然と密接に共存していて、また非常に危険なものでもあるから。だから村人達も排他的で濃密な繋がりを持っている。
その繋がりや思いを書かせると凄く上手いので、うっかりド素人な若者の成長も違和感なく受け入れてしまいそうになるんだけど、相当御都合主義も甚だしいんだよね。その辺りなんだかなぁ…と思うので、3点。
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